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より多くのクルマを売り企業収益を追求するアメリカ・デトロイトのフォード。レ-スに出場するための資金稼ぎが目的で市販車を売るイタリア・モデナのフェラーリ。理念の異なる二つの企業のプライドを賭けた闘い。
打倒フェラーリのレーシング・マシーン開発を託された組織になじめない二人の男が、いかにして勝利を収めるのか?そして、それを支える妻や子供たちの家族愛。
危険なため今は実施されていないル・マン式スタートの再現、時速300kmは優に上回るスピードが出る「天国が見えるストレート」と言われるユノディエールからミュルサンヌコーナーへ突入するまでの攻防、クラッシュシーンなどの、ほぼCGを使用せずレプリカの実車を使用し撮影したと言う臨場感のある迫力のレースシーン。
レースやクルマに興味がある方は勿論ですが、登場人物の性格や感情を丁寧に描いたヒューマンドラマでもあり、多くの方が楽しめる実話に基づいた内容の映画になっています。
デートにも、おすすめです。
業績アップのために、世界で一番過酷なレースの一つであるフランスのル・マン24時間耐久レ-スに出場し勝利を果たすための手段としてフォードが選択したのは、資金難に苦しみながらもル・マンでの連勝を果たしている絶対王者フェラーリの買収計画。
フォードからの買収提案に対し、コマンダトーレ(騎士団長)と呼ばれた男エンツォ・フェラーリは、「フォードはクルマも工場も醜い」とNOの返答。
屈辱的な言葉を浴びせられ、買収を断られたうえに、更にその直後フェラーリはフィアットと提携してしまうのです。怒り心頭のヘンリー・フォード2世は、自社でレーシング・マシーンを開発しル・マンでフェラーリを打ち破ることを決意。
そこで、レース経験のないフォードがレーシング・マシーンの開発に当たり白羽の矢を立てたのは、かつてアストン・マーティンでのル・マン優勝経験もある元レーシングドライバーで、今はカーデザイナーとして活躍しているキャロル・シェルビー(マット・デイモン)。
キャロル・シェルビーは、優れた才能を持っているものの、その純粋すぎる性格から誤解され、周囲からは付き合いづらい人と思われているレーシングドライバーのケン・マイルズ(クリスチャン・ベール)と共にフォードからの依頼を受け、王者フェラーリに勝つためのマシーン開発に臨みます。
監督は、「ウルヴァリン SAMURAI」や「LOGAN」のジェームズ・マンゴールド
「フォードVSフェラーリ」はとても見応えのある優れた感動的な作品ですが、やはりハリウッド映画なのでフォード視点の内容です。
どうしてもキャバリーノ・ランパンテ(跳ね馬)を、ひいき目に見てしまう者としては、エンツォ・フェラーリ視点の物語を見たくなってしまいます。
かつてはアルファ・ロメオのレーシング部門で活躍していたエンツォ・フェラーリは、独立後に自社開発のレーシング・マシーンをF1グランプリに出場させ、ついにF1グランプリでアルファ・ロメオに勝利した際、「私は母親を殺してしまった」と漏らしたそうです。この言葉には、勝利への喜びはある反面、自分を育ててくれた古巣アルファ・ロメオを破ってしまったと言う複雑な心境が表現されているようです。
その他、若くして世を去ってしまった息子の愛称であるディーノと言う名前のクルマを発売するなど、人間味あふれるエピソードを残すカリスマ経営者エンツォ・フェラーリ。
この映画の舞台となっている1966年のル・マンでは、フェラーリは330P3などの少数のマシーンでレースに臨んでいましたが、それに対しフォードは8台のGT40マークⅡと5台のGT40マークⅠを投入。
資金難に苦しむフェラーリにフォードは資金力に物を言わせ、大量のマシーンを投入する事により勝利したという見方も出来ます。
もちろん、フォードの開発力、キャロル・シェルビー、ケン・マイルズなどの優れた技術や才能が勝利の大前提だと思いますが、個人的には、大資本と闘ったエンツォ・フェラーリに心ひかれてしまいます。